スミダハイツ~隣人恋愛録~
良太郎はミサの分の皿を出し、ご飯とみそ汁をよそってちゃぶ台に並べた。

ミサは待ってましたとばかりに、嬉しそうに「いっただっきまーす」と箸を持つ。


毎日のようにご飯の匂いを嗅ぎつけてやってくるミサだが、何だかんだで憎めなのは、良太郎が作る料理を心底美味しそうに食べるからだろう。



「バイト、給料日前でさぁ。なのに大学で使う参考書を買わなきゃならなかったから、もうマジでやばくて。おかげであたし、爪に火を灯すような生活しなきゃじゃん?」


だから、火を灯すためにそんなに長い爪をしているのですか?

とは、もちろん怒られるから聞けない。


ミサはスカルプをつけて爪を長く尖らせているため、箸の持ち方が変だ。


良太郎は、ミサの財布の心配よりも、そんな箸の持ち方で魚をぐちゃぐちゃにしているその手元の方が、ずっと心配だった。

いっそ、「ほぐしてあげましょうか?」と、言ってやりたかったが、親子じゃないんだからと、良太郎は思考を払う。



「大変そうですね」


魚をほぐすのが、という意味だったのだが、ミサは大学生活やバイトのことだと思ったらしく、「マジで死にそう」と返してきた。


ミサはいつも『死にそう』なのだそうだ。

そのわりには、良太郎には生き生きして見える。



「しかもね、こんな時に限って、みっくんが、『旅行に行こう』とか言うの。でもあたし、そんなお金ないじゃん?」


またカレシが変わったのだろうか。



ミサは誰かと付き合っても、3ヶ月と持たない。

それどころか、恋人でもない男とも、平気で寝たりしているらしい。


良太郎は、そういう価値観を理解できなかった。


ミサを否定したりする気はない。

だが、やはり、心に決めた相手だけを大切にするのが、正しい恋愛なのではないかと思うからだ。



とはいえ、ミサに言わせれば、良太郎の考えは「古臭い」だけらしいが。
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