スミダハイツ~隣人恋愛録~
その時、上の階から、「ふざけんな、馬鹿!」という叫びが聞こえてきた。

どうせまた榊が、麻子と喧嘩でもして、咆哮しているのだろう。


ミサは味噌汁をすすりながら、



「うっさいよねぇ、榊。30前のくせに子供かっつーの」


榊も大概だが、ミサにだけは言われたくないはずだ。



「まぁ、それが榊さんのよさでもありますし」

「夜中に叫ぶのが『よさ』? ただの近所迷惑じゃん」

「それはそうですけど」


ミサの言葉はいつも辛辣なため、良太郎は榊を庇いきれず、曖昧にしか笑えない。

ミサは味噌汁の椀を置き、



「しっかし、実際どうなってるんだろうね、榊と麻子さん。付き合ってると思う?」

「どうなんでしょう」

「良ちん、榊と仲いいじゃん。何か聞いてないの?」

「さぁ? そういう話はしませんし」


良太郎の要領を得ない話ぶりに、ミサはイラ立ったのか、



「今度ちゃんと聞いといてよ」

「ですが、そんな、プライベートなことは。第一、そんなことを知ってどうするつもりですか?」

「榊を脅すネタにする」


ミサはにやりと言った。


ミサと榊は、会えばいつも喧嘩をしている。

別に嫌い合っているとかではなく、兄妹喧嘩に近いものだが、それにしても『脅す』とは。



「そんなことをしたら、仕返しされちゃいますよ。榊さん、かなり腹黒いですし」

「だから、そうならないためにも、榊がぐうの音も出ないほどのネタを掴みたいの」


これが新聞記者とかなら、きっとものすごく大きなスクープをものにできるタイプなのだろうが。

いかんせん、ミサはただの大学生で、これはこのアパート内での話だ。
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