スミダハイツ~隣人恋愛録~
榊はファッションデザイナーをしているだけあって、いつもオシャレだ。

だが、それは、着飾っているという風ではなく、常にラフなのに、全体が計算されたようなバランスで。


着こなす榊が男前だから、特にそう思ってしまうのだろう。


聞いたところによると、榊は学生時代、雑誌の読者モデルをしていたことがあるらしい。

でも、それを冗談のように思えなかったのは、やはり、榊のルックスがいいからだ。



「あーあ、嫌になるわよねぇ。二兎を追うものは一兎をも追えずって言うけどさ。どうして仕事を頑張ってると、恋愛の方がダメになっちゃうのかしら。おかげでプライベートでの楽しみといえば、こんな男とお酒を飲むことしかないなんて」

「おい、こら。お前、言うに事欠いて、俺を『こんな男』呼ばわりか」

「あらあら、ごめんなさい」


麻子は適当にあしらい、またビールを飲んだ。

榊は口元を引き攣らせながら、



「いいか? 俺とお前はまず根本が違うんだよ」


煙草を咥えた榊は、「よーく聞け」と、麻子に向き直る。



「俺は、仕事を優先させたいから、わざと女を作らない。けど、お前は、仕事を優先しすぎるあまり、いつも男に振られてる」

「恋人がいないって意味では、同じじゃない」

「いいや、違うね。俺はモテるんだ。選べるけど、選ばないだけ」

「じゃあ、私は?」

「麻子は、ダメだ。にも拘らず、せっかく自分を選んでくれた奇特な男をないがしろにしてる」

「ちょっと、ちょっと、榊くん。今、さらりと私をけなしたわよね?」


麻子は思わず抗議の声を上げたが、榊は「うはは」と、何だかよくわからないところで笑うだけだった。

麻子はうな垂れる。



「私だって、そりゃあ、どんどん結婚していく友人たちを見てると、羨ましく思うわよ? でもね、仕事に集中してる間は、やっぱり楽しいから」

「で、知らない間に浮気されて終わるわけだ?」

「むぅー」


ぐうの音も出ず、うなることしかできなくなった麻子を見て、榊は「馬鹿め」とまた笑う。

だけど、それは、決して麻子を馬鹿にしているような口調ではない。


榊はすべてをわかっているとでも言いたげな様子で、
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