ミラヘノラブレター

□夜の旅人


『また時空を超えてる奴がいるぞ。』

「またか…。」

きっとアイツだ…。
ホントに懲りない奴…。
見つかれば犯罪者にもなりかねないというのに、毎回毎回見つかるようにアイツは時空を超える。
だいたい、簡単に時空を越えるようなシステムを作った奴がそもそもの原因なんだろうけど。

『お前、乙女心が解ってないねー。』

「解らなくていい…。」

思わず溜息をついて、時空侵入者と同じ座標を取る。
座標を見つけてスイッチを押すと身体が軽くなり、一瞬にして時空を越えた。

今は昔と違い、簡単に時間を越える事が出来るようになった。
"時間旅行"なんて当たり前。
修学旅行や新婚旅行向けのプランさえある。

ただ、一口に時間を越えるというけれど、一般に開放されているのは"ただ見るだけ"のものだった。

未来には行けない、過去も弄れない。
それに不満を覚えた者や、もともと過去や未来を変えたいと思う者が、システムを変えて、不法に時空を越え出した。
だからこうして、そいつらを取り締まっているわけなんだけど…。

まったく迷惑な話だ。

「やっぱりお前か…。」

「もう来ちゃったんだ…。」

金色のふわふわした長い髪をした少女は残念そうに俺を見た。

「はぁ…。サアラ…これで何回目だ?」

「さぁ?初めてじゃない?」

ゴンッ。

「痛ーい!ぶつことないじゃん!」

「はぁ…。」

このお姫様はホントに…。

一度見つけた時からそうだった。
可愛い顔はしていると思う…が、本当に厄介なお姫様。
頭が良い事を利用して、システムを変えた時空転送機を使い、毎回毎回不法に時空を越える。

国の警報システムは甘すぎて、彼女が時空を越えた事を時間差で知る。
俺の相棒のシステムは国より少し早い…から、その前にいつも捕まえて説教するわけだけど…。

もうこれまでに何度捕まえたか解らない。
けれど、特に過去や未来を操作するわけでもないから、万が一国に捕まったところで逮捕はされないだろうけど。
冷や冷やする。
彼女が捕まれば世界的大事件になりかねない…。

「だいたい毎回毎回…!見つかったらどうするんだ、まったく…。」

「大丈夫!」

「大丈夫じゃない…っ!!…はぁ。」

彼女は国が抱える歌姫の中でも一番の歌い手。
この科学や機械だらけの世界の中で消える自然を戻す事が出来る、不思議な唄を歌う事が出来る力があった。
その唄は原因不明の病さえ治す事が出来ると噂されていた。

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