平穏な愛の落ち着く場所

8.




『若奥様!』


とうに忘れた呼び掛けが自分の事とは気づかず、千紗はすたすたと早足で歩いていた。


今日は火曜日で、週二日の崇さんのマンションのお掃除に行く日だ。

輸入雑貨店で珈琲豆を買い、その近くのスーパーでお昼ご飯の材料を買い揃えた。

今日のメニューはオムライスに野菜スープ、
紗綾と好物が変わらない。

千紗の口の端が自然と上がる。

昔から顔に似合わずお子様口なのよね、
なんて言ったらきっと怒るだろうな。

動物園に行って以来、崇さんは都合が付くと
自宅で私とランチをするようになった。

今日もそうすると今朝メールがきている。


『お待ちください、若奥様!!』


私はと言うと、自分の気持ちに正直になると決めた割りにそれをどう彼に示したらいいのかわからずにいる。

ーー なかった事にはできないぞ!

なんて言っていた割りには、彼はあの日以来私に触れることはなかった。


もういっそ私から押し倒してみようかしら?

って、やだ!
なに朝から馬鹿な事を考えているのよ!!


千紗は立ち止まって赤くなった頬を押さえた。



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