平穏な愛の落ち着く場所

この一週間、彼女が自分に連絡をしてくる
はずがないとわかっていながら、
鳴らない電話を何度も確めてしまった。

気にするな、千紗には千紗の人生があると
言い聞かせても、結局は駄目だ。

彼女の事は、どうしても気になってしまう。

正直に言えば、それは再会する前からずっと
心の中で燻っていた。

《結婚することになったの》

仕事を始めて一年目、忙しさに目が回る
日々に、彼女を放って置いたら
そう告げられた。

あの時の俺には、彼女を引き留める
術は無かったし、引き留めた所で
その先にある結婚はできない約束だった。

『離婚したのは昨日今日じゃないの、
 一年も前の事よ』

『なんだって?!理由は?!
 それに離婚したのに、なぜあいつは
 姓が野口のままなんだ?』

冴子は内心で、にやっと笑ったが
表情には決して出さないよう注意した。

『私の口からペラペラと親友の個人情報を
 話す訳にはいかないわ。
 本当に知りたいなら、直接本人に
 聞いたらいいじゃない?』

『ちくしょう……』

『何か言った?』

『いや』

『崇、私の口から言えるのは、あなたと
 付き合っていた頃が、あのこは
 一番幸せそうだったって事よ』

『なんだそれ……』

『悪いけど、これから打合せなの。
 一週間分のたまった仕事こなさないと』

じゃあね、と冴子は後ろ手に手を振って
崇のオフィスを出ていった。

『おいっ!』

結局、欲しい情報が手に入らず仕舞い
で、崇はコツコツとペンで机を叩いた。

『どうやったら、本人に聞けるんだ!』

彼女は俺の連絡先を知っているが
俺は知らないんだぞ。
昔の番号など、彼女の結婚と同時に消去
してしまっていた。

あいつが自分から連絡してくるはずがない。

この一週間で、ようやく認めた行き場のない
自分の感情をもて余している。

あの頃、俺にとって千紗は特別だった。
そして、それは今も変わらないと、
再会して思い知らされた。

自分の手で幸せにしてやれないのは
わかっていたから、あの手を離したんだ。

でも、彼女が不幸なのはダメだ!
あんな風に疲れて痩せ細った彼女を
見るのは耐えられない。

いったい、結婚生活に何があったんだ?

崇は深いため息をついた。



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