平穏な愛の落ち着く場所


『起きろ!おいっ!!千紗!』

激しく肩を揺すられて、千紗はハッと目を
覚ました。

『えっ?!崇さん?あっ……』

現実を認識した時には、彼の腕に抱きよせ
られていた。

『どんな夢を見ていたんだよ』

あなたと別れた日の夢なんて言えない

『ごめんなさい、いつもこんな風に怠けて
 はいないのよ』

腕から逃れようと身じろぎすると
返って強く抱きしめられてしまった。

『いつから泣きながら寝るなんて特技を
 身に付けたんだ?』

低い声に込められた優しさを感じて
千紗は顔をあげた。

『心配かけてごめんなさい、でも
 なんでもないの、サボったりするから
 悪い夢を見てしまったわ』

『千紗、俺を頼れと言ったはずだ』

『もう充分頼っているわ』

これ以上この腕の中にいるのは危険

前回のキスの意味を追求するのは
止めようと決めたんだから……

あれは……ちょっとした彼の戯れよ

千紗はそっと腕から離れた。

『それよりも、こんな時間にどうしたの?
 また出張に行くの?』

『いや。おまえと食事でもしようと思って』

『えっ?!』

千紗は本気で驚いた顔をした。

『なんて顔するんだよ』

『だって……私と食事?』

『ああ、悪いか?』

もう、いい加減にしてよ
彼の本心はいったい何なの?

『悪いわよ!』

『何で?』

『何でって……崇さん、もしかして
 タイで何か悪いものでも食べたんじゃな
 いかしら?!』

『はあ?おまえなに言ってんの?』

『だっておかしいでしょ?!それとも
 私をからかっているの?』

『どうしてそうなる?』

『バツイチ子持ちの女が珍しい?』

面白そうだった表情が途端に険しくなった

『千紗!!』

その呼び方に千紗は瞳をぎゅっと閉じた。

『もう!!そんな風に呼ばないで!
 ……昔のように私を呼ばないでよ!』

さっきの夢が心を弱らせている。

あなたとは、とっくに終わっているのよ
なのに、どうしてそんな……

『あーくそっ!!今さらいろはの
 いからなんて無理なんだよ!』

『何を言ってるの?』

本当にこの人はどうしてしまったの?
千紗は本気で心配しそうになった

次の言葉を聞くまでは………

『千紗、おまえが欲しい』

『え?!な、なんて?』

彼への心配は驚きに変わった。

『おまえが欲しい』

『はっ?!何を……』

『もう一度言わせたいのか?』

千紗は首をぶんぶんと大きく振った。
ジリジリと後ずさるが、すぐ後ろにあった
ソファーにストンと座ってしまう。

『ちょっと懐かしくなっているだけよね?』

『そう思うか?』

彼の両手がソファーの背を掴み、
逃げ場をなくされてしまう。

『だって……今さらこんな私なんか……
 会社にいる若くて綺麗な女の子たちは
 みんなあなたが好きなのよ?!』

『ふぅん……こんな私ってどんな私だ?』

違う!わかって欲しいのはそこじゃなくて
会社の女の子たちの部分よ!

『私、子供がいるのよ?』

『知ってる、だから?』

『だから?って……それに私……
 もうずっと…その……なんていうか
 そういう事はしてないの……』

『はあ?』

『娘ができて……それで離婚して……』

妊娠してから、夫は私に触れなくなった。
変わりに若いナース達が相手をしてくれて
正直ホッとしたくらいだ。

それ以前からだって、夫が浮気をしていた
からって、仕返しに自分もできるほど
度胸はなかったし、離婚してからだって
生活に必死でそんな暇はなかった。

『それを聞いて、俺がどう思うかって?』

『え?あっ……』

顎を掴まれて熱い唇が重ねられた。

『んんっ…待って…崇さん……』

有無を言わさぬキス

呼吸を奪うように何度も重ねられ
苦しくなって空気を求めて開けた口に
容赦なく彼の舌が入り口内を蹂躙された。


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