平穏な愛の落ち着く場所

抵抗していた唇が柔らかく応え始める
のを感じて、崇はうめいた。

『ベッドへ行こう』

『……え?』

キスの余韻でボーッとしていた千紗は
抱き上げられて、初めて彼が何を言った
のかが、脳に届いた。

『待って!』

『なんだ?』

『ダメよ!できるわけないわ!』

『なんで?』

『なんでって……私には子供がいるわ』

『さっきも聞いたが?』

だから何だ?という彼の顔を
まじまじと見る。

私は子供がいるバツイチの女で
あなたの様な人が相手にする
女じゃないでしょ!
そう言わなければ、わからないのだろうか?

『嫌か?』

そんな問いかけ卑怯だわ。
嫌ならとっくに突き飛ばしてるんだから……

『そうじゃなくて……んっ』

おまえは俺のものだと言うような
落ちてきた力強い唇の動きに、
千紗はもう何をどう言えばいいのか
そもそも自分が何を言いたいのかすら、
わからなくなってきた。

寝室の前で、私を抱く手に力がこもった。

彼を見ると、視線が開けろと言っている。

ドクドクと胸の鼓動が伝わってきて
彼も緊張しているのだとわかった。

千紗は肩につかまっていた手を外して、
ノブを回した。


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