君にすべてを捧げよう
「モテますよねー、鏑木さん。あの子、確か元カノでしょ?」


小声で馬渡くんが訊く。


「んー、確かそうだね」

「かわいいのになー、あの子。どうしてふっちゃうんだろう?」

「さあね?」


と、千佳ちゃんに呼ばれた智が出てきた。
入り口に立っているさくらちゃんを見て、困ったように笑う。


「あー、と。どうしたの?」

「あ、あの。電話、でてくれない、から」


あたしたちの方を窺いながら、もじもじと言うさくらちゃん。
聞いてませんよー、というように、戻ってきた千佳ちゃんに塗布の説明を再開した。


「じゃあ、ここからまたやってみて。頭皮につけないようにしてね」

「は、はい」

「馬渡くんはもう寝てなさい!」

「痛っ!」


聞き耳を立てている馬渡くんの額をぺしんと叩いたものの、あたしもつい聞き耳を立ててしまう。
なんてみっともない、とぶんぶんと頭を振ったところで、えらくはっきりと智の声が聞こえた。


「ごめんね、彼女いるから、そういうのは全部お断りしてる」

「あ……」

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