瞬きさえも忘れていた。
「何しに来たんですか? 私のこと心配するふりして、口止めですか?

そんなことしなくても、彼女には何も言いませんから。二人の幸せの邪魔なんかしませんから。安心してください」


「梨乃、違う。ちゃんと話そ?」


言いながら岩本さんは、私の腕をそっとすくい上げる。



掴まれたそれを大きく回し岩本さんの手を払い落として、そうしながら立ち上がった。


「何が違うんですか? もう話すことなんかないですよね? 『平気か?』って……。どういう神経してんですか? 平気なわけないじゃない!」



平気なわけない、と。何度も何度も繰り返した気がする。


いつもどんな時も優しく包み込んでくれたその胸が、今は憎くて仕方がなくて、左右交互に、握った拳を無我夢中で叩き付けた。



「梨乃、違う! 落ち着いて? 違うから、そんなんじゃないから。頼むから、話聞いて?」


宥めるようにそう言った岩本さんの声は、穏やかだけど焦燥しきっているのがわかる。



それでも溢れ出した激情を止められない私は、人目もはばからず泣きじゃくった。


< 142 / 255 >

この作品をシェア

pagetop