瞬きさえも忘れていた。
ぎゅうっときつく抱き締められて、その幸せな圧に、じわっと温かいものが瞳を覆う。



諦めなくて良かった。想い続けて良かった。

報われない辛さに苦しんだことさえ、良かったと思える。



胸を一杯に満たしている幸せに、頭の中がぼんやりしてしまって。


「夢みたいです」

ほとんど無意識のうちに、そんな言葉が口からこぼれていた。



「夢だよ。だってほら……」

いつかみたいに、岩本さんの手が私の頬へと伸びてきて。


「させません!」

すかさずそれを払い落として、頬を摘ままれるのを阻止した。



「つまんない」

不満げに言いながらも、岩本さんは再び、両腕でぎゅうっと抱きしてくれる。



「てかさ、いつまで敬語なの?」


「そんな先のこと、今はわかりません」


「『そんな先のこと』なんだ」


そう言ってまた、ふっと短く笑い声をもらす。岩本さんの息が右耳に触れる。

くすぐったい。でもすごく幸せ。




今の私にわかる未来なんて、たった一つしかない。


私は一生、この穏やかで愛しい笑顔を――――

飽きることなく見詰め続けるんだ。



瞬きさえも忘れて……。






Fin.


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