星の輝く夜空の下で
「結局付き合ってんだ」
帰り道、星夜が言った
「あー、うん。なんとなくだけど彼のこともっと知りたくなったから。知っていくうちに友達を好きとは違う感覚の好きがわかるかもしれないと思って」
「ふーん」
二人は無言で歩く
沈黙は続いた
夏芽の足音だけが空気に響いた
次第にいつもの川まで近づいてく
川の流れる音がしてきた
ほんのり海の匂いがする
きっと遠くの海まで繋がっている気がする
「…あたし、世界が少しだけ輝いて見えたよ」
「え…?」
「今まで生きる価値なんて分からなかった。死ぬことに恐怖心も何もなかった。毎日帰る道で何もない地面だけを見てきた。だけど今はこんなにも空がきれいな色してたこととか川の流れる音とか海みたいな匂いとか上を向いて歩いてることがあたしにはすごく幸せに思える」
優しく微笑んだ夏芽は星夜を見つめた
「なんだよ」
恥ずかしくなって顔を背ける星夜
「あんたがあたしの前に現れてから…」
「…」
「あんたがあたしの前に現れてから、少しずつ人生が変わって来た」
「え…」
二人が見つめあう時間はまるで止まったように見えた
「あたし、あんたのこと…」
「だ」
「…だ?」
「ダメだろ!!彼氏出来たんだろ!?ふ、二股なんて良くないよ。いくら見えなくてばれないからってそんな二股は良くないと思う」
星夜は大きく二回頷いた
夏芽は眉間にシワを寄せた
「は?」
「え?」
「あたしはあんたのこと、感謝しないといけないなって思っただけなんだけど…」
「え!?あ!!そっちか!!あは、あははは」
「変なヤツ」
星夜は落ち込んだ
夏芽は家に向かって歩いたのかと思いきや立ち止まった
「ねぇ」
「…んだよ」
「一番星、見つけた」
夕焼けと夜が混じる空にひとつの浮かんだ星に夏芽は指を指した
夏芽の笑顔が星夜の落ち込んだ気持ちを晴らした
「お前が笑っても台風来なくなったよな」
「だから、あたしのせいじゃないっつーの」
「俺さ、最近お前が笑うと…」
「…何」
嬉しくなるとはうまく言えない星夜だった
「何でもない」
「なにそれ、ムカつく」
星夜は幽霊になって初めて大きな声で笑った
夏芽は笑う星夜を睨んだ
「お前といるとケンカばっかだけど、お前といるときが一番楽しいよ」
「ケンカが楽しいとか意味わかんない」
こんな時間がずっと続けばいいのに
記憶なんて新しいもので埋め尽くせればいい
心の中で星夜は呟いた
この夏ひとつの花が芽吹き始めました