禍津姫戦記
 姫夜はまばたきした。涼風が吹きすぎるように、はっきりとわれにかえった。

「礼にはおよばぬ。わたしは……神意を伝えただけだ」

 にわかに狼狽え、じりじりと後ずさろうとした姫夜のほそい手を、ハバキがすばやくとらえた。

「おっと、逃がしはせぬ。お前もあの幻を見たはずだ。俺のとなりに確かにお前はいたではないか」

 姫夜は眼をしばたいた。たしかにその通りだった。
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