禍津姫戦記
 やはり歩みは遅くなったとみえて、山の中腹にある神木の前にたどりついたときは、あたりは暮れなずんで、空は茜色から紫へと変わりつつあった。
 杉の木は、大人が数人手をつないでも囲めぬほどの巨木だ。根本には人が一人入れそうな洞(うろ)がある。耳をすましてみても、小鳥の声と木の葉が風にゆれる音ばかりで泣き声らしきものは聞こえない。
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