ソラナミダ
「…折角の二人きりの時間だったのに……。」




握られた手は、ぽかぽかと温かい。





「…今から…仕事?」



「うん。」



「少し時間は?」



「……ない。」



「………そっか。」




あーあ、
またそんな顔して……。




「……じゃあ、次いつなら会える?」



「いつでも。だって隣り同士だし?」



「……社交辞令だね。」




「………なんか…、変だよ、晴海くん。」



「……なんで?」



「……駄々っ子みたい。ねえ、そんな顔してさ…、一体何考えてるの?」



「うーんと…」



彼はしばらく、考えるような素振りを見せた。



「……平瀬さんのことかな。」



「…………!」



な…、


なにそれっ?



「…ずっと考えてたら…寝不足になった。」



「…………。」



私はじっと目を見る。



傷ついたかのように、寂しそうなその瞳の奥……



背けることなく。


数秒たって………





「……わこ。」




晴海くんが、名前を呼んだ。



「……何……?」




「…驚かないんだね、急に名前で呼んでも。」



お互い、ポーカーフェイスをつらぬいたまま。



「…大抵の人は名前で呼ぶから。苗字で呼ぶのは、同僚と…『うの』くんくらい。」



「………。」



…仕返し。


君がどんな顔するのか…。



「……久しぶりの呼び名だ。」




大人の睨めっこはそうも簡単に決着なんてつかなくて……



「……タイムリミットだ。引きとめてごめん。」





君の手が離れてようやく…


互いに表情を緩めた。




それはまるで、ドラマのワンシーンに、カットがかかったかのように……。
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