ソラナミダ
「そんな大袈裟な…。」


「馬鹿野郎。それで会社の顔が潰れたら、いくら普段の頑張りがあっても誰も認めてくれない。…結果論なんだよ。」


「……でも……」


「現にここにもいるしな。恋にうつつ抜かして島ながしにあった奴が。」


「………。」



…木村さんが?


「…なんの冗談ですか?」


美帆と二人、笑い飛ばす。


「……まあ、今の立場から言ったら俺は成功者といえるかもしれないけどな。」


木村さんはふざける様子もなく…。


「もう一方は、全くダメダメだったけどな。」



「………。」


至って…
真面目だった。


「まあ、あいつには頑張って欲しい訳だよ。それには…、平瀬、お前の支えがいると思うんだ。」


「………。」


「常に一緒にいろってことじゃあないぞ。互いを意識しないくらいの存在でいろって意味だ。心にゆとりがあれば…例え会えなくても、ちゃんと思いやれる。お前はこの仕事は…好きか?」


「……はい。」


「…なら、まずは自分の為に…、しっかりと地に足をつけることだな。」



「……はい。」



……なんだろう、

随分含みのある言い方だけど……。



「…あと……、晴海は元気か?」


話のついでのようにして…


突然、晴海くんの名前。



おかげで心臓が跳びはねそうになった。



「…げ、元気ですよ。」


「近所付き合いは良好か?」


「………。」


近所付き合いっていうか……



「……いい友達です。」



「………え。【友達】?」


「はい。…あれ、晴海くんから何も聞いてませんか?」


「………。あいつは基本秘密主義だからな。けど……、平瀬とねぇ…。」


木村さんが、私をまじまじと見つめた。


「……。男は難しい生き物だ。お前が何をとるかは知らないが…、俺を幻滅だけはさせんなよ。」


頭をポンっと叩いて…

にこりと笑顔を浮かべたまま、木村さんはこの場を立ち去った。


見送りながら、美帆がぽつりと呟やく。



「…なんじゃありゃ。随分意味深なこと言ってくれんじゃん。」


「…だね。」


ホント、どういう…意味…?


「つーか、…社内恋愛、したことあるらしいよ。木村さん。」


「……え。」


「でも…、木村さんの異動という名の左遷と同時に、相手の人は退職しちゃったみたい。」


「……そう…なんだ。」


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