恋なんてミステリアス
 彼は潤と名乗った。名字と合わせると、阿川潤。完全に名前負けの部類に入ることだろう。阿川は、彼女は欲しいが堅い職業が災いして女性がフランクにならない為、なかなか恋愛に発展しないのだと嘆いた。千夏は思った。果たしてそうなのだろうか。女性が心を開くのに仕事が関係あると定義した話は聞いた事が無いし、勿論、私も同じである。恐らく、こいつは相当な勘違い男に違い無いだろう。 
 一時間が経過した頃、私はこの場に限界を感じた。「そろそろ・・・・」
 そう私が言い掛けた時だった。 
「そう言えば、千夏さんの刺激って何ですか?普通、毎日が平々凡々ですよね。で、その平々凡々の生活の中で、千夏さんの刺激は何なんだろうと思ったんですが」
 こいつ、いきなり何を言いだしたかと思えば。既に帰宅するつもりになっていた事を遮られた上に私の刺激は何かだって。ふざけるんじゃない。私だってちゃんと刺激的に生きてるさ。お前こそ、彼女の一人も居ない平凡野郎のくせして、いっちょ前の口をきくんじゃない。頭に来た。完全に頭に来た。 
「じゃあ、また連絡しますね。さようなら」
 だが、美佐子の仕事仲間である以上、職場での彼女の立場を悪くする訳には行かない。そう、その程度の事は私にだって分かる。だから、今日のところは格段の作り笑いで済ませよう。
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