恋なんてミステリアス
「あなたのご主人の名前は?」
 真理恵は恐る恐る聞いた。 
「主人だった・・・でしょ。そう、あんたが付き合ってた相手だよ。いくら不倫だと言っても名前位は知って付き合ってたんじゃないの?」
 真理恵は、嫌な予感が的中したと思った。思い起こせば、彼が私に求めていたものが何だったのか今考えてもはっきりと分からない。面白く無いと言われたが、彼の面白いとは何だったのか。もしも、幸子が言ってることが真実であれば、遊び相手として不足だったという事になってしまうのであろう。真理恵は、被害者は自分のほうだと思った。
「知らなかった。彼、独身みたいな感じだったし、既婚だなんて疑うことすらしなかったもの。それがまさか・・・」
 幸子は馬鹿にしたような笑みを浮かべた。 
「あんた、自分が被害者だと思ってるんじゃないの?最初に声を掛けたのはあんたのほうだよね。そのせいで私は離婚までしてしまった。実質的な被害者は私のほう。あんたは加害者なねよ」
 真理恵の顔から血の気が引いていった。 
「いいえ、私も被害者なのよ。弄ばれただけだから」 幸子は聞く耳を持たないといった仕草でタバコに火を点けた。 
「あんたさえ、声を掛けなければねえ・・・」  
「あれは、電車のキップの買い方が分からないようで困った様子だったから」
「それが余計な事なのよ」「でも、困ってる人には」「偽善者だよね、あんたは」
 私が偽善者?私は困ってる人を助けて、それが恋に発展しただけなのに。真理恵はハッとした。知らない土地での一人暮らしに淋しさを感じた頃、確かに人肌恋しい時があった。そしてその時期とあの恋は重なった。真理恵の口から次の言葉が出ることは無かった。
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