忘却
「とにかく明日にでも、戻れ。」



いつかは戻ると決めていたから

荷物は少なくて荷造りが簡単にできた。


深谷さんからもらった手紙はカバンのポケットに入れて




「すみません、今から、戻りますっ」




明日なんて待てなくて、
すぐに部屋を飛び出した。



工藤さんは、そうだな、と言って
笑ってくれた。
私は頭を下げ、走って駅に向かった。









飛び乗った夜の電車。


揺れる電車はあの時を思い出させる。



もうすぐ迎える冬の冷たい風が窓の隙間から入ってくる。




「深谷さんっ…」




心配なのに頭がまわらない


前に座ってる人のタバコの匂いは

深谷さんと同じで、



愛しくて、
苦しくて、
心配で、



久しぶりに泣いた。
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