牙龍−元姫−
「だから機嫌を直してくれないかい?君に嫌われるのは私にとって世界の破滅への一歩なのだよ」




はあ………業とらしくため息をつき肩を竦めた。そんな目の前に立つ男を冷ややかな瞳で見つめる。寧ろそのまま破滅に迎え。





「……ふうん。いっそ嫌ってくれたら嬉しいけど。そしたら俺は二度とアンタに関わらなくて済むのに」

「笑えない冗談はよしてくれよ、ちーくん!君は私のお気に入りなのだから!」




冗談も何も120パーセント本気だし。アンタといると精神すり減らされる。





「その無機質な色をした瞳は私の胸を高鳴らせる!何にも無頓着な瞳に私は虜なのだからッ!!」

「キモい、変態が」

「失礼な。私は両刀だ」




はあはあ………と息を切らせながら熱弁。アンタも変態とか止めてくれ。変態は【夏】だけで充分間に合ってるから。


両刀だとは知っていたが再度聞かされると、距離を置きたくなる。――――――――――俺は自然に一歩後ろへ足を引いた。







「兎に角、たまには姿を見せてくれないと」

「――チッ」

「舌打ち!?もしかしてちーくん!このままトンズラかまして音信不通にするつもりだったのかい!?」

「………」

「………え?図星?」





あくまで予想の範囲だったのか、俺が本当にそうしようとした事に驚いた様子。





「それは困るよ、ちーくん。でも私から逃げられるものなら逃げてみるかい?地の果てまで追い掛けるから」

「遠慮しとく」





本気で追い掛けてくるから恐い。『冗談だよ』そう笑うけど、俺が逃げたら本気で追い掛けくるだろうね。


昔からそれは体験済み。ストーカーなんて非じゃない程の尾行力。俺が行くとこには必ずこの男がいた。催促、虐めかと思ったぐらいだから。






「うふふふふふ」

「キモいんだけど」




急に妖しく笑い出すのに悪寒がして、また一歩下がった。徐々に距離が遠退く。


悪寒と共に嫌な予感がした。この顔はなにかを企んでいる顔だ。それはこの男の‘娯楽’が始まる合図。所謂人形遊びの時間。






「いや〜、確かちーくんは私の許可なく神楽坂に入学していたね?なら今は神楽坂な生徒なわけだ?」

「………」

「無言は肯定と見なすよ。そのことだけどチャラにしてあげてもいい」




続けて『ほんとはキツイお香を据えようと思ったんだけど』そう言った。


――――――どういう風の吹きまわしだ?この男のイカれた心を読み取るなんて不可能に近い。
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