牙龍−元姫−




「ちーくんは響子ちゃんが好きかい?」

「………別に」




好きに決まってる。しかし響子に意識を向かせないようにそう言うが、意味は無かった。男は俺の言葉なんて関係なく話を進めた。




「響子ちゃんを牙龍に任せるなんて心配じゃないかい?」

「………」

「なら君がついでに牙龍を見極めてくればいい」

「…は?」

「実は神楽坂に居るちーくんにして欲しい事があるんだよ」

「……」

「君にとっても良い話だと思うよ。このままじゃ響子ちゃんが傷付いてしまうからね。うふふふふ」




気持ち悪い不気味な笑い声。俺は微かに眼が合わないように逸らしていた視線を男に向けた。


ガチリと合った男の瞳。溢れんばかりの狂気が滲み出ている。妖笑が更に其を引き立てる。



――――‥‥‥ああ、痛い。
狂って狂って狂って狂って狂って狂って狂って眼が廻りそうになるくらいに頭が痛くなるような瞳だ。





「勘違いしないでおくれよ?‘ついで’だから。君に任せたい事がある。要は頼み事さ」






――――それも‘娯楽’の為に?そう言う俺に、可笑しく愉しげに愉快そうに笑う。





「詮索は無用。君は頼まれたことだけをしていればいいんだよ」







異議は認めない。



闇に紛れし二人の間に一筋の月の光が射し込んだ。真っ黒の深い闇色の髪の中に散りばめられた似つかわしい純白色をしたメッシュ。

黒のジャケットに黒のワイシャツ。黒のジーンズに黒の靴。黒一色に包まれた身の中にある、その白は眼を奪う。


光に照らされ妖しげに笑みを浮かべる男は、裏も表もなくただ己の欲望と娯楽と興味には忠実なだけ――――――相変わらず【冬】は苦手だ。



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