牙龍−元姫−
私が彼女と出会ったのは中学3年のときに開かれた神楽坂高校の学校見学会の時だった。



彼女とは話したこともない。その学校見学会で目があっただけ。彼女は私なんて到底覚えてないだろう。だけど私はその日から彼女を忘れたことなんて無かった。



凄く彼女に魅せられてしまったからだ。









「やっぱり凄く綺麗だよね」



横でボソッと友達が呟いた。それしか言い表せないというように圧倒されているようだ。その気持ちは分からなくもない。彼女を目にすると息の仕方を忘れてしまいそうな程釘付けにされる。



〈野々宮響子〉さんはどちらかといえば可愛い系な美少女。



ふわふわと白い綿菓子みたいな可愛らしい女の子。『趣味はレース編みで、特技はクッキー作りです』とか言ってそうだよね。ただの私の妄想だけど。



綺麗なのは存在。



動作一つ一つに魅せらてしまう。指先から頭の天辺まで。こうしてただ歩いているのを見るだけでも目が奪われる。



綺麗。本当に綺麗。そして可愛い。天使みたい。可愛いけど綺麗。―――――そんな思いが頭を駆け巡る。




私はそんな彼女に会いたかった。ただもう一度だけでも彼女を一目見たかった。だからこの神楽坂高校を志望校に選んだ。



――――多分志望理由が‘牙龍’では無い人もそうなんだろうな。私と同じ理由でこの学校を受けている人は少なくはない。



そして神楽坂高校に入学してから彼女に魅せられた人も少なくない。寧ろ大半が彼女の虜。過激派は彼女の信者と化している。
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