牙龍−元姫−

爆弾投下数分前








「大将、生一丁〜」

「あいよー!」





華やかな建物が並ぶ道筋から逸れた小道に佇むのは、古びた一世代前程の居酒屋。



仕事で疲れた後の癒しの一杯を求めたサラリーマン風の中年男性で賑わっている。



中年男性の中に埋もれた3人の麗しい美青年。むさい男で溢れ変える店でも男の目線を奪い釘つけにしてしまうほどのカッコよさ。





「ギャアアアア!」





───――黙っていれば、の話だけれど。





「辛っ!」





ヒーヒー言いながら水を求める、爽やかそうな黒髪に短髪のスーツを着こなす好青年。





「オラよ慎さん」





“慎さん”に氷水を渡すのはテーブルを挟んで前に座るサラサラで艶のある青藍色の髪が似合う藍原蒼衣。相変わらず今日も色気をセルフサービス中な模様。





「つ〜かそれ特製辛口ソースじゃねえの?」

「だッ誰だよ!こんな辛いソース頼んだ奴!」





シーン。────何故か静まり返ったテーブル席。





「あ?何だよ」





揚げたて熱々の串カツを頬張る奴に自然と二人の目線が集まった。



確かに明らかに串カツ。



だがしかし。



可笑しい、可笑しいぞ。



注文後にアルバイトらしき店のお兄さんが持って来たときにはそんな赤い色のモノは乗っていなかったはず。





「…ケチャップか?」

「んなわけねえだろ馬鹿か慎さん」





悪態つくのはゴツゴツした銀の装身具が目立ち金色の髪が眩しい、加賀谷遼太。



生意気な口調ながらも何故か“さん”付けは忘れない。



串カツに乗っている赤い色のソースは特製辛口ソースみたいだ。
< 248 / 776 >

この作品をシェア

pagetop