牙龍−元姫−



「ふざけんじゃねえよ!!お前が慎さんを裏切ったんだろうが!!忠告されたんじゃねえのかよ!!慎さんが止めるのを無視したのはテメエだろうが!!」

「――――空、落ち着いて」





息を切らす空さんに、ここに来て漸く庵さんの声を聞きました。



目を血走らせる空さんの肩に手を置いて宥める庵さん。いつでもどこでも自分を見失わない庵さんは流石だと思いました。



空さんは“慎さん”を人一倍尊敬して敬っている聞きました。



その人を貶されて、赦せないのでしょう。



尚も激しさを増す雨。倉庫を打ち付ける雨の音が耳に逆らう。



澱んだ空が激しく泣いています。――――空さんも泣いているような気がしました。





「な、なに言ってんだよ?俺は―――――」

「まだ分からないのか?」





しらばっくれようとする“それ”の言葉を無視して総長は言いました。



もう言い訳も言い分も聞き飽きたのでしょうか。



聞きたいのは真実。



――――ただそれだけ。









「自分が此処に連れてこられた意味が」





この空間が、酷く息苦しいです。
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