牙龍−元姫−











「――……はぁ」





溜め息を付きながら椅子に座り直した。肩肘を付きながら再度溜め息を付く。本当にもう溜め息しか出てこないわ。



呆れ返る私に響子は申し訳無さそうに見つめてきた。少し目に涙が溜まっている。そんな顔するから私が悪者に間違われるのよ?





「ご、ごめんね?里桜」

「全くね。だいたい見ず知らずの女からジュースを奢って貰うアンタの気が知れないわ」





正論の言葉に心にグサッとキたのか、響子は「ううっ」と顔を歪めた。


まず自販機に行くなら財布ぐらい持っていきなさいよ。どんだけ抜けてんの、アンタは。





「ったく、」





ああ、もう。本当に嫌だ。なんで橘なんかと関わってんの?これっきりなら未だしも【これから】が合ったら堪ったもんじゃない。



最悪。


本当に最悪。



橘が嫌いな訳じゃない。



私が嫌いなのは―――…





「里桜、」





響子は苛々する私の眉間に指を置いた。





「可愛い顔が台無しだよ」





その言葉に眉間の皺が徐々に無くなり強ばった顔が和らいでいく。





―――――――天然タラシなのかしら?この子。






「……誰のせいよ」

「ごめんね?だけど橘さん私を知らなかったの」

「は?」

「私を桃子ちゃんって呼んでたの」





は?桃子?誰よ?



まさかの言葉に唖然となる。



私はジュースを貸しにして響子を利用するのかと思っていたから。知らない?響子を?そんな筈ないじゃない。だけど響子が嘘を付く意味もないし私に嘘を付く訳がない。



なら本当に知らない?



―――……響子も抜けてるけど、案外橘も抜けているのかもしれない。噂話に疎すぎでしょ。
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