牙龍−元姫−
「それとも、まだ未練があるの?」
それは“何の”未練なんだろう。牙龍か街か――――彼か。
「俺なら、傷つけないのに」
綺麗な顔を歪められる。怒りと悲しみと苛立ちでゴチャ混ぜになった顔色。頭に手が回ったことに気づいたときには―――――――――――唇が重なっていた。
「…っ」
目を見開いて緑川君を押し退けるもののびくともしない。
舌が割って入ってきたことに吃驚して肩が震える。
だけど腰と後頭部に回った手が私を離さない。
「…っふぁ」
息が出来ず、すがり付くように緑川君の服を掴む。
硬直していた身体がフニャッと緩む。抵抗は疎か拒否の意さえ見せれない。
このまま流されてしまいそうになったとき女神が舞い降りた。
「響子ーッ!」
それは2階から私を呼ぶ里桜の声。
僅かに輝君の呻き声が聞こえてくる。
里桜の声で我に返ったのか即座に私と距離をとる緑川君。
少しだけ目を見開いてる辺り自分のした事に驚いてるようだった。
「…あは、キスしちゃった」
“しちゃった”じゃないよ。
軽く言う緑川君にムッとするも、冷や汗を流す彼には拗ねることもできない。ヤバい、と顔に書かれているから。