牙龍−元姫−
私と彼女の間には見えない境界線が張られてあるみたい。
近づくことすら儘にならない。
畏れ多くて、近寄ることを自然と拒絶してしまう。
…しかし今はそう言ってはいられない。
それもそのはず。彼女を待たせているのは私なんだから。
なかなか彼女と約束しているのが自分だと実感が沸かない。
気後れし退きそうになる足を前へと動かし、足早にその境界線を越えた。
私は緊張で高鳴る胸を抑える。
そして彼女の名前を呼ぼうとしたが―――‥。
声を掛けようとする前に、彼女が私を気がついた。
無表情から笑顔に変わり、周りに“ぱぁっ”と華が浮かび上がった。
ニコニコと笑顔のまま小走りで私に近寄る。
その度にヒラヒラと揺れる小柄な彼女にピッタリの短いスカートの裾。指定のない自由なシャツ色はピンクで女の子らしさが際立つ。
(たったったっ。)
小走りで近づく彼女。
背の低い彼女が私の目の前に立ち見上げてくる。
まるで人形のような顔立ちに、私とは違う生き物みたいだと目を凝らす。
「(か、可愛すぎる)」
「こんにちわ」
「こっ、こんにちわ!」
「走ってきたの?髪が乱れてる」
元から寝癖で乱れている髪を彼女は手櫛でといてくれる。
そのとき彼女から漂う良い匂いがふわッと薫る。