牙龍−元姫−
――――現に僕と2人きりの部屋にいてもゆったりしている。


でも水晶を見て目を輝かす姿は可愛かった。


僕として2人なんだからドキドキしてほしいところだけど…。


安心しているのか信頼されているのか、ちょっと複雑。


もしかして意識されてない?





「庵?どうかした?」

「あ、ごめん。何でもないよ」





心配した声に我に返る。栗色の髪が頬を掠め、近くにある彼女の顔がよく見えた。


大きな瞳に吸い込まれそうで、目を逸らす。


でも見るからに柔らかそうな頬と艶やかに潤った唇が目に止まり、一瞬目が離せなくなった。


吸い寄せられるがままに頬に唇が触れる。








当然のことながら響子は吃驚したようで肩を震わせた。





「…っ庵?」

「響子は色素が薄いよね」

「…色素?」





何を言っているかわからない、と首を傾げている。
自分でも唐突だと思った。





「うん。肌も髪も、瞳の色も、全部」

「あ、そうだね。確かに日本人にしては薄い、かな?」

「だから不安なんだ…」

「え?」





そう、不安なんだ。


淡い響子がいつかそのまま、空気に溶けそうで。世界から消えてなくなってしまいそうだから。
そう思えば思うほど、儚い存在だと感じてしまう。


響子が手の届かない高嶺の華と呼ばれる意味がよくわかる。





「響子が消えるんじゃないかって…」





我ながら馬鹿な事を言っているとは思う。


でも本当にパアッと弾けて光になって消えてしまいそう。


繊細で綺麗で儚いから、尚更そう感じてしまう。





「それを言うなら庵もだよ。私よりも消え褪せそう…」

「ハーフだから?」

「ううん。もっと根本的な問題。いまの庵が凄く儚いから消えてしまいそう…」

「…僕はそんなに弱くない。だから大丈夫だよ?響子から離れたりしないから」





自信満々で言いきる。


逆に言い返されたことで、少しだけさっきまで考えていたことが馬鹿らしく感じた。


僕の言葉に微笑む響子はいつにもまして輝いている。
やっぱり彼女は素敵だな、とベタなことを思った。






――――ここまで響子に入れ込んでる僕はきっと重症患者に違いない。
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