牙龍−元姫−

恋の病は治らない

〔IORI SIDE〕


懐かしむように部屋を眺める響子を見ては胸が軋んだ。響子を追い出したのは紛れもない僕達だったから。


“懐かしむまで”此処に来ていないと言うこと。それも結局僕達のせい。悔いた過ちから不意に泣きそうになってしまう。


泣きはしないけど、絶対。響子の前なら尚更。





僕につられてか微かに肩を震わせる響子を、ギュッと抱きしめれば上目遣いで僕の方を見詰めてくる。

無意識に誘ってくる潤んだ瞳に呑まれるのが怖くて、僕は視線から逃れるように顔を首筋に埋めた。


そしたら響子は優しく抱き返してくる。
細い腕と小さな手で背中に手を回す。


頑張って背伸びをする小さな響子が可愛くて、もっと強く抱きしめる。
ちょっとキツいかな?なんて思うけど、まだ離してあげない。






そしてチラリと響子を盗み見る。


雪を欺く白磁の肌、さらさら滑る栗色の髪。光を反射する透き通るような瞳。彼女のすべてが綺麗で神秘的。ふわふわと雲の上にいる存在。


まるで清らかで穢れの知らない純白の天使。


きっとそれは大袈裟なんかじゃない。僕は本当にそう思ってるから。僕と同じ意見の奴は山程いるはず。


可愛いと囁けば否定される。本当に綺麗なのにね、


でもその綺麗さがちょっとだけ不安だったりする。






―――いつだったか、


この部屋で、雑誌の専属モデルを見ていた彼女がぽつりと呟いた言葉が「可愛くなりたい」だった。


僕からすれば背伸びして着飾ったモデルより自然体な響子のほうが数百倍可愛いと思った。


いつも「可愛い。」って言ってるのに、なかなか信じてくれない。更に可愛くなろうとする。


それは困る。だって、他の男から見られてるって危機感が全くないんだから。
可愛すぎるのも悩みの種だ。
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