牙龍−元姫−





「帰りましょう」

「え?か、帰るの?」

「此処にはもう用はないですし」




腕を掴んでいた手を放し、手を繋ぐ形に変え私に言う。確かにお持ち帰りにして購入した私達には、店にいる理由はもうない。しかし突然の事で驚いてしまった。




「えええ!?帰るの!?一緒にガールズトークしようよ桃子ちゃーん!」

「お前にガールズトークなんて一生無理だから」

「なっ何だとー!?」



ムキィーと歯を食い縛り怒る橘さんに飄々とした千秋。そして不意に思い出したように千秋は何かを橘さんに差し出した。



「ああ、そうそう。これ」

「……?何だこれ」

「イチゴミルクのお返し。駅前の和菓子らしい。アイツから」

「アイツ?」

「それでチャラ。そっちの菓子は交渉代。もう二度と響子に関わるな、だって」

「はあああああいいいいい?意味分かんない!これ要らない!桃子ちゃんと関われないならお菓子なんて要らないよバーカ!帰れ!」




アイツと言うのはきっと里桜。私が奢って貰ったイチゴミルクのお礼らしいけど――――――交渉代って何。授業サボってコソコソと何かを買いに行ってるかと思えば。何やってんの里桜。





「俺に言うなよ。アイツがお前に会いたくないらしいし頼まれただけ」





て言うか、毛嫌いし過ぎでしょ。自分で渡せば良いのに。きっと里桜なりに考えたんだろうな。明日有り難うって言わなきゃ、



千秋は火の粉を被らないようにさっさとこの店から出ようと私に視線で託す――――って自分から火の粉を撒いたのに。





「た、橘さん今日は有り難うね!」



千秋に手を引っ張られ歩きながら再度去り際にお礼を告げる。千秋の手には返品されたお菓子。橘さんは受け取らなかった。お菓子で交渉って言うのも可笑しいけど、交渉は不成立らしい。




「桃子ちゃーん!またね!」




一瞬どう返事をしようか迷った。しかし考える間に口は開いていた。





「"また"ねっ」






理由なんてわからない。



でも、気がつけば“また”と次の約束をしてしまっている私が居た―――――――…
< 74 / 776 >

この作品をシェア

pagetop