結婚できるの?
希望が絶望に暗転する瞬間は、おそらく誰の人生でも何度かあるのだろう。

それとも絶望など感じることもなく、長い人生を終える人もいるのだろうか。

3月下旬の月曜日、亜里沙は出勤直後に川島仁史(かわしま・ひとし)から声をかけられた。

タイムカードを入れ、更衣室へ向かおうとしていたときだ。


「高野さんだね? 着替えを済ませたら人事室へ来るように」

「は、はい」


48才の川島は取締役の一人で、人事の室長でもある。

亜里沙は川島の名前や存在は知っていたが、話すことは初めてだった。
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