ふたつの背中を抱きしめた



罪は、どんどん深くなっていく。


私が、息をするごとに。


時間が、1秒経つごとに。

閉じた目蓋の裏で、
柊くんの笑顔と綜司さんの泣き顔が
浮かんでは、消える。


「…真陽、眠れないの?」

「ん…ごめん、起こしちゃった?」


寝床で数回目の寝返りをうった時、隣で寝ていたはずの綜司さんが話し掛けてきた。


しばらくの沈黙が続き、また眠ったかと思った綜司さんが、再び口を開いた。


「…真陽、明日仕事休んだら?」

「えっ…どうして?」

私は仰向けになっていた顔を綜司さんに向ける。


「だいぶ疲れてるんじゃないかなぁと思って。本当はキツいの、無理してるんじゃない?」

「そんなコトないよ。ほら、最近暑かったからちょっとバテてたのかも。」


綜司さんは、ベッドの中でギュッと私の手を握った。


「真陽、辛かったら言って。僕はどんなコトだって必ず受け止めるから。いつだって真陽の味方だよ。」



その言葉は、
昨日までの私ならどれだけ温かく私の胸を満たしただろう。


一片の偽りもない、その優しい言葉は

今の私に、残酷な誓いをたてさせる。


「ありがとう綜司さん。その時はちゃんと言うから。ちゃんと頼るからね。」



----言わない。


絶対に、言わない。


私の罪を
綜司さんには。


だって
綜司さんはきっと

私の罪を
受けとめてしまう。

罪ごと私を
抱えてしまう。

心が血塗れになりながら
私を抱きしめてしまう。

だから


言わない。


私が良心の呵責に耐え切れなくなって
いつか心が壊れたとしても。

「おやすみ、綜司さん。」

絶対に、言わない。




< 108 / 324 >

この作品をシェア

pagetop