ふたつの背中を抱きしめた
5章 堕ち行くキスをあなたに

1.恋人みたいに





朝を迎えて見た景色は、昨日までと違って見えた。


馴れ親しんだこのマンションが他人の家みたいに思える。

本当ならばここに居る資格なんか無いからかもしれない。


「おはよう真陽、体調はどう?」

「おはよう綜司さん。全然大丈夫だよ、ありがと。」


私は綜司さんに目一杯元気そうな笑顔で挨拶をしてコーヒーのカップとハーブティーのカップをテーブルに置いた。

カモミールのいい匂いが、刹那、私の心を和らげてくれた。



昨日は、とても長い1日だった気がする。

出勤してきた私は園門の前で自転車を降りて、ふと、そう思った。

ゆっくりと歩みを進めて中へ入ろうとした時


「おはよう、真陽。」


後ろから声を掛けられた。

「柊くん…おはよう。」

心臓が大きく高鳴りだしたのは罪悪感の緊張からか

それとも昨日肌を合わせた相手と顔を会わせるのが気恥ずかしいからか。


「ちゃんと来てくれたんだね、良かった。」

「来るに決まってんじゃん、真陽に会えるんだから。」

柊くんの言葉に私は目を丸くする。

「なんだよ?変な顔して。」

「だって…。柊くんて割と大胆なコト言うね。」

「そうか?いつも思ってたけど言わなかっただけだよ。」

私の顔が紅く染まっていく。

「何してんの?早く行こうぜ。」

立ち尽くしてしまった私に、柊くんは事も無げにそう言って手招きをした。


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