ふたつの背中を抱きしめた
いつものように、自転車を押しながら門を出るとそこに柊くんが立って待っていた。
あれから他のボランティアさんも入ったので、私達は良いとは言えない雰囲気のままろくに会話を交わす事もなく業務が終わった。
「…お疲れさま。」
「…ん。」
柊くんは、怒ってると言うより明らかに拗ねた表情をしていた。
「…いっしょに帰るだけなら、いい?」
おずおずとそう聞いてきた柊くんに、私は断れるはずもなく首を頷かせた。
肩を落としながら歩く柊くんと並んで、街路樹の並木道を自転車を押しながら歩く。
しょんぼりした顔の柊くんが、口を開いた。
「真陽、明日休みだろ。」
「うん。」
「そんで明後日から夜勤だろ。」
「そうだよ。」
「俺日勤だし、全然会えないじゃん。」
「………」
「真陽は寂しくないのかよ?」
「柊くん…」
私は困った顔をして彼を振り返った。
「寂しいよ、俺は。つまんないよ。毎日だって真陽に会いたいのに。」
駄々っ子のように訴える柊くんに、私はそっと片手を伸ばして彼の手をとった。
「手、繋いで帰ろう。柊くん。」
柊くんは少しだけ泣きそうな顔になり、無言のまま私の手を握って歩き始めた。
片手で押す自転車はフラフラと不安定で時々足をぶつけていたら
「俺が押す。」
と、途中で柊くんが替わってくれた。
「私ね、この自転車に密かにシルバー号って名前付けてたんだ。」
「…真陽ってバカだな。」
「なっ!?バカって言うな!」
柊くんはあははっと笑った後、ちょっとだけ黙ってから
「…俺、真陽のちゃんとした恋人になりたい。
やっぱ、もっと傍にいたいよ。」
夕焼けに顔を染めながら、独り言のように呟いた。
私はその切ない言葉に、ただ俯くしかなかった。
並木道に、2人の並んだ影が長く伸びていた。