ふたつの背中を抱きしめた
「あれ、プール出したんだ?」
夕勤で入ってきたリエさんが園庭の隅っこに干してあるビニールプールを見て言った。
「うん、柊くんがね園長に許可もらって出してくれたの。」
私は引き継ぎ事項をホワイトボードに書き込みながら答えた。
「ふーん。 真陽ちゃん、柊くんと仲直りしたんだ?」
そう言ったリエさんの語気はちょっとだけつまらなさそうで。
私はホワイトボードに書き込む手を止めないまま答えた。
「仕事だからね。いつまでもギクシャクしてるワケにいかないし。」
自分はこんなに流暢に嘘が吐けるのかと感心する。
と同時に、私はリエさんも裏切ってるコトになるのかなと、また1つ心に錘を抱えた。
「さて、じゃあそろそろ私帰るね。リエさん、あとヨロシク。」
マジックのキャップを閉めながら私は白々しい笑顔をリエさんに向けた。
「お疲れさま、でもビニールプールだけはしまってから帰ってね。」
「おっとそうだった。」
私はタイムカードを押すと慌てて園庭へ向かったけれど、
既に干してあったプールもホースも片付けられた後だった。