涙空
夏樹君の愚痴を吐き出した怜香の話に、殆ど耳を傾けていなかった。
それに気付いた怜香は、私を心配そうに見遣るとそう言った。
…別に体調が悪いわけではない。至って元気。
「ごめん、ボーッとしてただけ」
「…佳奈。昨日なんかあった?」
「え?」
いつになく怜香は私を一直線に見つめた。
その瞳は、私からなにかを探りだそうと揺らぐことを知らない。
嫌なくらい、怜香は鋭いから、困るなあ。
苦笑を浮かべながら、怜香に言った。
「本当、なにもない」