涙空



「…別れたいと思ったこと、ないのか」

「…はい?」




唐突だった。そんなことを聞かれたのは。


からん、机上に無造作に広げられた教科書にシャーペンが落ちる。

ぱちりぱちりと数回瞬きを繰り返してから頭の整理に入る。



…別れたいと思ったことって。

どうしていきなりそんなことを聞くのかがわからない。…というより――――どうして今日はこんなに、郁也について触れてくるのだろう。




「…ない、ですけど」




静かに、だけど意思ははっきり述べる。


…なかった。今までそんなことが脳裏を過ぎったことも、口からその言葉が零れることも、なかった。




「…」

「…なんでそんなこと」




…【いきなり、聞くんですか】。…皆までは言えなかった。

息苦しかったからだ。苦しい。喉まで手を伸ばしてみる。…が、危うく力を込めてしまいそうになって、

――――抑え切れない力でそれを握り潰してしまいそうで、怖くなった。すぐに膝の上に戻す。



だけど担任には言わとも伝わったらしい。




「…そりゃいきなり言われたら焦るよな」




淡々とした口調だった。


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