幕末オオカミ


「こいつは、一度も上様のお手つきになってない、仮の側室だった。

そんな生活が嫌で、逃げ出してきたんだと」



土方副長は淡々と言う。


一度もお手つきになってない……つまり、側室のくせに、一度も上様に抱かれていないということ。


幹部が哀れみの目であたしを見た。



「公武合体のため、和宮様が嫁がれた直後のこと。

上様も和宮様に気を使って、他の側室のところにお渡りになるのを躊躇われたのだろう」


「…………」



そういえば、そうだった。


宮様は豪華な式典を催されて、あたしは端っこからそれを見てた。


不公平だな~と思ったのを思い出した。


でも、そんな話したっけ?


それに上様、しっかり他の側室のところには不公平にならないように回っていたような気も……。


……もしかして、土方副長、あたしが恥をかかないように気を使ってくれてるの……?



「で、あとさき考えず脱走してきて路頭に迷い、ここで盗み食いしてたのを、総司が拾ったわけだ」



……前言撤回、やっぱり副長があたしに気を使うわけなかった……。






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