情炎の焔~危険な戦国軍師~
こうして8月9日の朝。


私達は近江の佐和山城を出て美濃に向かった。


「ねえ、疾風」


私を乗せる馬に話しかけながら、背後の佐和山城を振り返る。


「またあの城に帰って来れるかな?」


あの場所で私は7ヶ月の時を過ごした。


左近様に誑し込まれたり、平助さんとの修行に明け暮れたり、三成様に叱られたり、ひなたさんにからかわれたり、色々なことがあった。


そのどれもがみんな大切な思い出だ。


「きっと帰って来れますよ。いや、なんとしてでも帰って来なければならない」


疾風の代わりに、左近様の返事がすぐ近くから聞こえてきた。


三成様の後に左近様が率いる隊、その後にどこそこの武将の隊、さらにその後ろにまた別の武将の率いる隊、というふうに並んで走っている。


私は左近様の率いる隊にいた。


「そうですよね。帰ってきましょう。絶対に」


史実通りになんかさせないんだから。


飛燕の如く舞えの主人公は自分なんだと己に言い聞かせて、私達は美濃へ続く道を駆けた。
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