情炎の焔~危険な戦国軍師~
その日の夕方、美濃の大垣城に到着した。


「殿」


左近様が着くなり三成様に話しかける。


「どうした、左近」


「丹後、大津、伊勢を平定するための兵をそれぞれに出しなさったとか」


「ああ」


「そしてここにはたった数千の兵しかいません。あまり兵力をばらすのはよろしくないかと」


「問題ない」


三成様は相変わらずのポーカーフェイスだ。


「なぜそう言えるんです」


「家康はいまだに江戸にいると聞く。ということは家康の本軍がこちらに来ることはしばらくないだろう」


「しかし、清洲城があるではありませんか。じきにこちらにも攻めて来るでしょう。どうか兵を集めて下さい」


清洲城といえば、確か正則様の城だったはずだ。


「家康の力にあいつがおののけば良いと思ってた。あわよくば徳川方についちまえば良いと思ってた。それくらいのことで徳川に屈する性格じゃないのは、俺達が一番良く知ってたはずなのにな」


数ヶ月前に会った時の正則様の言葉を思い出す。


あの寂しそうな笑顔。


とても偽りのものには見えなかった。


あれほど三成様のことを思ってくれるなら、もしかしたら東軍を裏切ってくれるのではないだろうか。


それに三成様とは、秀吉様の元で共に育った縁もあるのだから。


そんな甘い期待を一瞬、抱いた。


しかし、実際彼は関ヶ原の戦いで東軍の先鋒として戦っているはずである。


飛燕の如く舞えでも、あの歴史小説でもそうだった。


私はかぶりを振った。


そして2人に近寄っていって言う。


「左近様の言う通りです」


すると三成様のひときわ鋭い視線が飛んで来た。
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