情炎の焔~危険な戦国軍師~
「わかって下さい」


左近様はなおも説得するように言う。


「嫌です」


「友衣さんっ!」


わざとらしくちょっと荒い声を出されても通用しないんだから。


全否定するかのように私はぶんぶんと首を振る。


「絶対に勝って、あんたの元に帰って来ます。それではいけませんか?」


しかし、史実は違う。


それを知っているからこんな恐怖があるのだ。


「友衣さん、どうか俺を信じてくれませんか?」


信じたかった。


信じたかったのに。


突如、私の心を侵蝕し始めた暗い気持ちは首肯することを許してくれなかった。


「…そうですか。信じてくれないんですね」


寂しそうな顔に胸がズキズキと痛む。


耐えられずにただ一言、本心を言う。


「私はあなたを失いたくないんです」


好きだからこそ、そう思うの。


「俺だってそうです」


「だったら」


「そんなに駄々をこねないで下さい。あんたらしくもない」


「…」


言葉に詰まった私は無言の抵抗をする。


左近様の表情がますます曇った。


「殿の次はあんたまで聞き分けがなくなりましたか」


「そうかもしれません」


困り果てる左近様を見てさらに胸が痛んだが、なるべく強気に振る舞う。


深いため息が降ってくる。


私は何も言わなかった。


そしてその夜はいつになく乱暴に扱われた。


(どうして…)


慈愛に満ちたいつもの彼とはうってかわって、まるで本能をむき出しにしたかのように荒々しく私を抱く左近様を見る。


見上げた顔は悲愁(ひしゅう)と怒りが混ざった複雑なものだった。


(左近様。私はただあなたを死なせたくないんです…)


悲しい心の痛みを感じながら、私は静かに目を閉じた。
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