情炎の焔~危険な戦国軍師~
「華さん。どうしてわざわざ私達にそれを?」


「使命とはいえ私を愛してくれた人を裏切った。その罪を誰かに懺悔したかったんです」


そして


「もう運命なんて信じません。間者の身でありながら三成様に心を奪われたあの時から…」


と華さんは答えた。


「え?」


「だって間者が諜報の対象を好きになるなんて皮肉じゃないですか。もし私達がせめて普通の主人と侍女でいられたら…」


「華さん…」


「告白は終わりました」


「?」


「これで三成様に死んでお詫びすることが出来ます」


「華さん!」


「ダメです!」


私と同時に左近様が鋭く叫ぶ。


「すみません、冗談ですよ。私、出家しようと思ってるんです」


「出家ですか?」


いきなり仏教の話になったので私はつい聞いてしまう。


「はい。出家し、仏道修行に励み、三成様の魂が成仏出来るように祈祷し続けます」


「それがいいですね」


少なくも死んでお詫びするなんて方法よりよっぽど。


三成様はそんなこと望んでいないはずだから。


「では、そろそろ参ります。さようなら。友衣さん、島様」


そう言って去っていく華さんの後ろ姿はなんだか儚げで、私は胸が少しだけ苦しくなった。


そして、なぜだか得体の知れない不安が胸をかすめていた。
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