情炎の焔~危険な戦国軍師~
「これはこれは、左近殿」


幸村の居室に行くと、部屋の主は突然の訪問にも関わらず微笑んで迎えてくれた。


「あなた方が大坂にいた頃以来ですね。こうしてゆっくりお話するのは」


「ああ。まだ秀吉殿が生きておられた頃だ」


「あの頃は平和でした」


「幸村…」


幸村は少し寂しそうな顔をしていた。


「あの頃は戦のない時代が始まったと思っていた。そしてずっと続いていくのだと思っていた。なのに、今は…」


「ああ」


また、戦の世の中だ。


「友であった三成殿ももういない。…左近殿」


「どうした?」


「申し訳ありません。いきなりこんな状況に巻き込んでしまって」


「?」


「元はといえば某が志のある味方を欲したからです。だから左近殿も、あなたの大切な友衣殿も」


目の前の男ははずいぶん苦しげである。


俺は励ますように言う。


「きっと、最後だ」


「最後?」


「この戦いが終わればきっと、平和になる。家康が負けるか俺達が負けるかはわからない。だが、きっと次の戦で」


「?」


「すべてが終わる」


そんな気がした。


「左近殿」


「そうすればもう戦うこともなくなる。だったら簡単だ。あと1回戦えばいい。歴戦の武士である俺達なんだ、1回くらいどうってことない」


俺がそう笑うと、幸村は少しだけ微笑んでくれた。


「それに、彼女は俺が守るからな」


「かたじけない。あなたはまことに頼もしいお方です。三成殿もきっと心強かったことでしょう」


そこまで言ってまた難しい顔になってしまった。


「そういえば、全く違う話で申し訳ないのですが」


「どうした?」


「この城に徳川の間者がいるのではという噂を青霧が耳にしたのですが」
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