情炎の焔~危険な戦国軍師~
「何、徳川の忍だと?」


「はい。今、青霧にそのことを調べさせているところです」


「穏やかじゃない話だな」


「一応、左近殿のお耳にも、と思いまして。何しろあなたは世間では」


「ん?」


「関ヶ原で討ち死にしたことになっております」


そうか。


そして俺が生きていることは当然、家康も知らない。


「家康殿は三成殿を二度も晒し者にしただけではなく、さらに城までも井伊のものにしてしまった。あれほどまでに…」


幸村の肩は小さく震えている。


あれほどまでに、とは佐和山城を廃城にして民から慕われていた殿の影を徹底的に消そうとしたことをさしているのだろう。


「ですから三成殿の軍師だったあなたが生きていることが知れたら、家康殿は何をしてくるかわかりません」


「俺ひとりの命など、あの方に比べれば小さいものだ」


「しかし城の者は皆、左近殿が生きておられるとわかって士気が上がっております。何より秀頼様や淀の方様までもが喜んでおられるのですから」


その言葉に対して口をついて出たのはため息だった。


「ですので何とぞご用心下さい。藤吾」


するといきなり音もなく幸村の横に男が降り立った。


「左近殿の警護をせよ」


「わかった。幸村」


藤吾は頷いてからこちらを見た。


「ということなんでよろしくお願いしますね。左近殿」


急にくだけたのは彼の性格だろうか。


主である幸村以外の人間には軽くなる。


…徳川か。


再び関ヶ原のような天下を分けるほどの大戦が来ることを予感しながら、俺は藤吾のけろっとした顔と幸村の険しい顔を見比べていた。
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