情炎の焔~危険な戦国軍師~
「え?」


話が飛びすぎて訳が分からない。


なぜ左近様が狙われるの?


「徳川の忍がこの城にいるという噂があるだろう?それは僕のことなんだ」


「藤吾さんが、徳川の⁉」


すると口を手で塞がれる。


「声大きいよ」


急に押し殺すような低い声で言われ、私の動きが止まった。


「薄々気付いてるだろうが、そう遠くないうちに豊臣と徳川は戦になる。その時、家康様は徳川の名誉か何かを名目に戦うだろうが、本質は豊臣の残党狩りさ」


「豊臣の残党狩りって」


そんな言い方、あんまりだ。


「そして敵方の城に、かつて歯向かった石田三成の重臣がいた。彼を始末すれば、家康様も喜んで下さるはずだ」


きっと、そうだろう。


家康殿は完膚なきまでに三成様の関係する人の命を奪い、城まで破壊してしまった。


家族も家臣も皆死んでしまった。


島左近という重要人物がこちらにいるとなれば、きっと彼の命を狙うだろう。


だけど…。


「しかし、もし君が僕のものになるなら、思いとどまっても良い。どのみち、いずれは大坂城を攻めるだろうから」


藤吾さんの言うこと、めちゃくちゃだ。


仮に私が藤吾さんのものになったとして、忍が女ひとりのために、反徳川勢力にいる重要人物の存在を知らせないなんて。


そんなことありえるの?


しかもこんなに家康殿の狙いをべらべら話してしまっている。


意味が分からない。


もしかして、はったりなのだろうか。


言ってることは全部嘘で、脅しているだけ?


「もちろん、幸村や他の者にこのことを口外した時も彼の命はないからね」


ふいに感情のない目を向けてくる。


それは半蔵さんの刃物のような目を思い出させるほどに鋭く尖って、私の心を撫でた。


ぞくり、と背筋が凍る。


「僕だって忍だ。一人の命を頂くことくらい訳ない。そうなった時、君は後悔しない自信、ある?」


ドキッと心臓が痛んだ。


左近様はこの時代、すでに死んだことになっているはずだ。


しかし、彼は生きている。


つまり、いつどのような形でも命を落としたっておかしくないということだ。
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