情炎の焔~危険な戦国軍師~
「卑怯です、人命を盾にしてそんなこと」


「君も15年前は戦に参加していたんだろう?数多の者の命を奪ったはずだ。だから僕も君も、人の命を踏みにじっている点では同じだ」


「そんな…」


私が我慢すれば左近様は命を奪われずに済むって?


嫌だ。


隣に左近様がいない人生なんて、考えたくない。


でも、私のために彼が命を落とすのはもっとつらかった。


この世でたったひとつの失えない、失いたくないものだから。


そんな恐怖に支配された私は首を横に振ることをやめた。


「…」


その日は左近様の元へ行けなかった。


いや、行かなかったと言った方が正しいかもしれない。


ただ現実から目を背けようと訓練ばかりしていた。


左近様という最愛の人も、彼の命も失いたくない。


だけどどうすればいいか分からず、迷うばかりだったのだ。


次の日。


「やっ、はあ‼」


邪念を払いたくて、庭で竹刀をただひたすらに振っていた時だった。


「友衣さん」


左近様がいきなりやって来た。


「さ、左近様…」


何も知らない彼は相変わらず太陽のような笑顔を向けてくる。


私の心とは、逆で。


「どうしたんです?」


近付かれて思わず歩を後ろに進めてしまう。


「友衣さん?」


嫌だ。


「…いきなりごめんなさい、左近様。私と」


こんなこと言いたくないよ。


「私と別れて下さい」


「わ、別れる?」


離れたくないよ。


「私達の関係を終わりにしてくれませんか。私、他に好きな人が出来てしまったんです」


他に好きな人なんて…いないのに。
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