情炎の焔~危険な戦国軍師~
ただの侍女ではない、と言われてポンと心臓が跳ねた気がした。


私の正体を見抜かれているのだろうか。


しかし、次の言葉でその緊張は姿を消す。


「ふふ、ただの戯れよ。冗談はさておき秀頼様もお義母様もあなた達を頼りにしてるわ。もちろん私も。きっと豊臣を勝利に導いてくれるって」


ああ、その期待を裏切るわけにはいかない。


信頼を寄せてくれていたのに、かつて三成様を死なせてしまったみたいに。


「いいえ千姫様、私は…」


不安がこみ上げてプレッシャーになって心に重石のようにのしかかってくる。


だけどそれ以上にこの人の涙を、そして幸村様達の死を見たくないと思った。


「あ、寒いのに引き止めてごめんなさい。また話せるといいわね」


私の考えなどもちろん知るはずもなく、ふわっとお香の匂いを残して千姫様は去っていった。


「はあ、綺麗な人だなぁ…」


思わずそんなことを呟いてしまう。


「面白い独り言だな」


急に背後から男の人の声が飛んできた。


「あっ、聞いていらしたのですか」


声の主は幸村様。


「そなたが遅いから様子を見に来たのだ」


そうだ、呼ばれて部屋に行く途中だったんだ。


「も、申し訳ありません!」


「ははっ、構わぬ。心配になっただけだ」


幸村様は雪空さえ明るくしてしまうかのように爽やかに笑ってくれた。


「千姫様は確かにお美しい方だな」


「そうですよね。秀頼様もイケメンですし、美男美女の夫婦でうらやましいです」


「いけめん?」


怪訝そうな幸村様を見てハッとする。


いけないいけない、さすがにこの時代にイケメンなんて単語あるわけないか。


「あっ、秀頼様も麗しいお方ですねってことです」


「うむ。そうであるな」


「そういえば三成様も」


なるほど、よくドラマでも石田三成はイケメンな俳優さんが演じてるイメージだなあ。


ちなみに島左近は作品によって出てくる時もあれば出て来ない時もあるけど、私的にはだいたい50代後半くらいの渋くてカッコいい俳優さんが演じているイメージがある。


左近様は関ヶ原の戦いの時、60歳くらいだったという説が現代では最有力に見えたけど彼は今でもそれより若く見えるし、一体何歳なのかな。


「三成殿か」


私の脱線した思考などつゆ知らず、幸村様は遠くを眺めるような目をした。


「三成殿は大切な友であった。それ故、関ヶ原の戦のことは真につらい」


「私もです」


そして部屋に着くと、幸村様は三成様のことを話してくれた。
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