情炎の焔~危険な戦国軍師~
第59戦 三成を思う-亡き家臣、そして主へ-
その日の夜。


私は左近様に、幸村様との話をした。


「そうですか。幸村がそんなことを」


「はい。彼は本当に悲しそうでした。左近様もですけど、大切な人を失って15年も苦しんでいるのって、相当な絆がなければ出来ないことだなって」


その時、ふいに部屋の外から凛とした声が聞こえた。


「邪魔するぞ。左近に友衣か?」


「よ、淀の方様」


意外なお方の登場で私は思わず恐縮してしまう。


「おや、もうお休みになられたかと。あなたのような方がこんな時間によろしいのですか?」


左近様はわりと落ち着いている。


「幸村から聞いた。友衣、そなたと三成の話をしたと」


「はい」


「三成のことを思い出したら眠れなくてな」


そういえば三成様と淀の方様にはどんなことがあったんだろう。


「友衣、そなたも三成に仕えていたのだったな?」


「はい。数ヵ月ですが。そして最期まで見届けたのに助けられなかった。それどころか、守らせてしまった」


見届けた、と言ったが本当は斬られた瞬間は見ていない。


大切な人が命を奪われる場面など見れるはずがなかった。


最後に見たのは一瞬の、儚げでありながら強い意志を秘めた優しい微笑。


まるで


「愛してます」


関ヶ原でそう言った左近様の最高に綺麗な笑顔みたいだった。


死の間際にあっても志を折らず、毅然たる態度も凛然たる表情も変わることはなかった。


もしかしたらあの時、彼の頭の中にあったのは誇りと覚悟だけだったのかな。


「三成様の最期は本当にすべての意味で美しかった。でも、だからこそ助けられなかったのが悔やまれます」


「…15年前のことじゃ」


淀の方様はゆっくりと語り始めた。


15年前…あの関ヶ原の戦いがあった時のことを。
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