フクロウの声
十、マオリ
いく度も戦闘に巻き込まれ、
それをできるだけ避けながらの旅路で、
マオリが着いた頃には江戸はもうすっかり春も終わりかけていた。
 
丘から見る江戸の町は賑やかしく、人で溢れていた。
空気も心なしか埃っぽく感じられる。

箱庭のような小さな区切りの中で
ひしめくように家々が並んでいる。
 
この広い江戸の町のどこに沖田がいるのか、
マオリは知らない。
もしかしたらもう既に江戸にいない可能性がある。
 
旧幕府軍は関東での戦いにも敗れても追われ、
北上を続けていると聞く。
おそらく土方はその戦いに今も身を投じているのだろう。
 
マオリは町を見下ろしながら、
行きかう人々の顔を眺めた。

人間の目には豆粒ほどの大きさにしか見えなくても、
おれとマオリにはその表情までも読み取れる。
そして、耳を澄ませば会話も聞こえる。
 
新撰組も旧幕府軍であるから、
見つかればただでは済まされない。
なかなか人々の口から沖田の名前を見つけて探ることは難しかった。
 
そうして、沖田の手がかりを掴もうと数日間、丘で過ごした。
 
おれはマオリが眠っているあいだに江戸の町を飛んだ。
 
すると、あの嫌な咳が聞こえてきた。
一軒の家に向かっておれは旋回していく。
 
間違いない、沖田だ。
 
沖田は一人、新撰組の仲間とも別れ
植木屋に間借りして養生していた。
 
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