恋猫

 淳ノ介は篠という女性が、良く分からなくなった。そして、今から何が始まるのか、不安を感じていた。


 篠は淳ノ介と結ばれるのが夢だった。


 物心付いた時から、淳乃介に憧れ、憧れ、苦しいほど憧れ、それが今では自分で制御できない危険水域にまで達していた。憧れを夢ではなく、現実にまで、篠は狂うように追い求めるようになっていた。


 この機会こそ、化身した篠には、夢を現実にする絶好の機会だった。


 思いが逸り、楚々と淳乃介の後に従っていた自分が、いつしか淳ノ介の先を歩む積極的な自分に知らず知らず変わっていた。篠は、それに、はっと気が付いた。


 (猫を被るのは、よしにしよう。どうせ、すぐに分かる事だから。こうなりゃ、本性を全部見せてあげるからね)


 化身した篠は、一世一代の大戦(おおいくさ)を前にして、身震いし、開き直った。
 二人は、それぞれの思いを胸に出会い茶屋へと歩を進めた。







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